『ナイトクローラー』感想"後味の悪い見事なサクセスストーリー"
ジェイク・ギレンホールの演技の素晴らしさ、そして作品のメッセージ性が大変良くて多くの人の2015年の好きな映画ランキングトップ10に入るであろう作品でした。
リリース情報
日本公開日:2015年8月22日
簡易感想
私的好き度:★★★★★
笑える:★☆☆☆☆
泣ける:☆☆☆☆☆
怖い:★★★☆☆
スカッとする:☆☆☆☆☆
ドキドキする:★★★★☆
心があったまる:☆☆☆☆☆
憂鬱になる:★★★★☆
映画感想
狂った人間が勝ち上がっていく社会を描いた映画
こんなにもスッキリしないサクセスストーリーってありですか?
とてもモヤモヤが残る作品で、誰かと話したい気持ちで一杯です。
ジェイク・ギレンホールがルイス・ブルームという男として報道専門のパパラッチを演じたこの作品。主人公は”キモこわい”なんかと表現されていますが、痩せこけて目が飛び出ているような容姿とよく見せる笑顔の組み合わせがなんとも不気味です。
そんな彼が見せる、道徳的な善悪ではなく合理性を基準としている姿はまさに狂気を帯びており、映画を観ている私たちがその姿を現場で目撃したような感覚に陥るラストは見事でした。
え?監督はこれが監督デビュー作なの?それまで脚本一本で大活躍していたようんですが、スタートダッシュが素晴らしすぎるので早くも次回作を期待したいです。
主人公ルイス・ブルームが報道カメラマンを偶然見かけたことをきっかけに、報道専門のパパラッチとなり、良い画を追い求めていくというストーリー。
この映画を見る前には、ジェイク・ギレンホールが演じる主人公ルイス・ブルームがパパラッチという職業を通してどんどん狂気と化していくというストーリーなのかなと思っていました。
しかし、実際はルイス・ブルームは映画が始まった時から狂っているといえば狂っている。凄まじく常軌を逸しているとは言い難いものの、間違いなく彼は重度な自己愛性人格障害者で、承認欲求の高さや物事への執着心というものが普通ではありません。
ルイス・ブルームの狂気の正体は、徹底した合理的感性を持っているという点と自分が優れているという異常なまでの自信があるという点。
徹底して合理性があるから、例え道徳に反していても自分の利益のためになんでも行動が出来るし、自分が優れているという異常な自信があるために彼は人を人間として見ないほどに見下し自分の意見が絶対に通るものだと考える。
彼自身がパパラッチという職業を通してそれらを肥大化させ、行動がますますエスカレートしていく様はまさに恐怖を感じます。
いかにも狂っているというようなモンスターになるのではなく、あくまで人間という範囲内で狂っている姿を表現したジェイク・ギレンホールの演技はとてもリアルさがあり良かったです。
でも何が一番怖いかと言ったら、この社会がそんな道徳心皆無で異常な自信家こそ成功していく世の中だということ。確かにルイス・ブルームは利益や結果への追求力は強いし、交渉力もあり、冗談も言えて部下を束ねるリーダーシップもある。成功するビジネスパーソンってこんな人だよな、と否定することが出来ないんですよね。
そんな人間こそが勝ち上がっていくことのできる世の中が、今いる私たちの社会なのだと思うとひどく憂鬱な気持ちになりました。だから、この映画って別にパパラッチという職業が必要要素ではないんだと思います。
この映画は報道という職業の狂気な面を表現したかったのではなく、究極なところ道徳心のない人間こそが勝ち上がれる世の中のあり方を皮肉を交えて映したかったのではないかと思いました。
ルイス・ブルームを全否定できない葛藤
そしてもう一歩踏み込んでみると、この映画は社会で少なからずもハイエナのように執着心を持って結果を追求し、人を欺き利用することを求められたビジネスパーソンを中心とした人間の写し鏡のような効果を持っているとも言えます。
ルイス・ブルームは確かに狂っているが、それに完全に否定的になれない自分がいる。人に認められたいという気持ちから出来るビジネスパーソンを追い求め、自己啓発に勤しんでいる人にとっては彼の中に理想としているものはきっとあるし、自分と重なる部分は少なからずあると思うのです。
世の中で成功したいという気持ちに正直になると、究極的に彼のような人間になりたいと思うかもしれない。しかし、自分の利益ではなく人を思いやる心を大切にしたいという気持ちがそれを許さない。
人間としての正しい心を持って成功したいとは思うものの、それが難しいと気づいている大人がこの作品を観てモヤモヤするのならば、そのような葛藤があるからではないかと思ったりします。
まあ、世の中にはルイス・ブルームのように初めから道徳心を捨てた人間や、途中で開き直っていった人は意外といるとは思いますが。
でもどうなんですかね、道徳心を完全に無視した人間が一生勝ち上がることは出来ないと思いますが、この思いには自分自身の僻みのような気持ちが含まれているとするならばやはりモヤモヤが止まらない・・・。
このように、主人公ルイス・ブルームという人間が自尊心と承認欲求を持ち利益を追求した究極的な姿であり、自分自身の心の中に存在する可能性は十分にあるだろうと思わずにはいられませんでした。
最後に
そのようなメッセージ性以外にも、他の誰よりも刺激的なネタを撮るという執着心が見せる緊迫したアクションシーンもなかなかに見所。
カメラの映した世界とカメラを覗き込む世界の両方を楽める上で、そこにあるギャップがこの作品の魅力でもあるでしょう。
さすが、第87回アカデミー賞脚本賞にノミネートされただけありますね。非常に満足でたまらない。
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