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映画に飲み込まれた迷い主

『彼は秘密の女ともだち』感想”本性を暴き出すセンセーショナルなセクシャルムービー”

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映画『彼は秘密の女ともだち』を見た感想をネタバレなしで書いています。自身がゲイであると公言しているフランソワ・オゾン監督の最新作はセクシャルなテーマに踏み込んだ、いかにもオゾンらしいミステリアスな作品でした。

リリース情報

日本公開日:2015年8月8日

簡易感想

私的好き度:★★★★☆

笑える:★★☆☆☆

泣ける:☆☆☆☆☆

怖い:★☆☆☆☆

スカッとする:☆☆☆☆☆

ドキドキする:★★★☆☆

心があったまる:☆☆☆☆☆

憂鬱になる:☆☆☆☆☆

 

映画感想

ミステリアスに本性を暴き出すセンセーショナルなセクシャルムービー

恐らくほとんどの人は「あなたはストレート?それともゲイ?」と聞かれたら即答できると思います。自分自身の性的志向はどんな優柔不断な人でさえもしっかりとした答えを持っているものでしょう。

しかしこの映画を見てそのゆるぎないと思っていた性的志向を揺るがされました。この作品はそんな自分自身のもしかするとわかっている気になっているだけの本性をひっくり返して暴いていくような映画であると思います。

 

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世の中には先ほど述べた通り異性愛者か同性愛者がいます。しかしそれだけで人間の性的志向、または嗜好っていうのは語れない。

例えばこの映画の”ダヴィッド”という男性は女装が趣味で異性愛者です。つまり女になりたいけれども女が好き。とにかく女が好きということです。この秘密を知ってしまうクレールという女性も男と結婚した異性愛者です。

ダヴィッドの女装癖はともかくこの表向きな設定のままだと、異性愛者からすれば普通な性的志向を持ったキャラクターが登場する映画という印象を持たれるかもしれません。けれどもそうではなかったからこそセンセーショナルという感想を持ったのです。

この二人の間にはローラという人間がいます。クレールの小さい頃からの親友であり、ダヴィッドにとっては最愛の妻でもあります。そのローラが病気で若くして死んでしまう。それをきっかけに二人の距離が縮まっていくのです。

このローラというのは二人にとってどういった人間かというと共通して「憧れの存在」です。それも単なる憧れではない。抱かれたい、一つになりたいと思うほどに憧れの存在なのです。

そう、二人の性的志向や嗜好を左右させているのはローラという存在なんですね(下の画像右)。彼女の死後、彼ら二人が自分自身がローラに寄せていた欲望に気づきそれを解放させていくのですが、その背徳感さえ感じさせる気持ちが暴かれていく様にゾクゾクしました。

 

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話は戻りますがつまりこの映画は異性愛者か同性愛者では語れない、より深く性に踏み込んだ作品なのです。

ダヴィッドがローラの死後、女装の趣味に再度目覚めた理由。そしてクレールの内に秘めた欲望。

女性らしく生きたいという二人の共通の願望がローラという女性によって歪んだ欲望に変化している様を見て、人間の性的な部分の奥深さに気づくことが出来ます。

そしてそれはダヴィッドやローラだけではなくもちろん現実世界にいる私たちにも当てはまることなのです。

自分は異性愛者だと私は考えていましたが、例えば二人にとってのローラのような憧れの同性には正直抱かれてもいいとさえ思います。(誰とは言わず←)

はっきりと異性愛者と決めつけることは難しいことで、今はなくても可能性として自分が同性に魅かれることはありえるのでは?とその性の奥深さを思うと考えてしまいます。

これって変なことかも?と少し思ったりしますが、枠にはめて考えられるほど性的な趣味、志向ってはっきりしていないものではないでしょうか。

このように複雑な性の在り方や線引きのできない曖昧さを、オゾンお得意の現実と想像の境界を曖昧にさせる演出をはさみながらこの映画は表現しています。

もしかするとこの映画で描かれている性の在り方は「狂っている」と思ってしまうかもしれません。それでもそんな普通ではないと思ってしまうほどに深い内面性を提示できているのですから、この映画は考えれば考えるほど興味深いものが詰まっている作品だなのではないでしょうか。

二人の欲望がどう変化していくのか、これから観賞するという方はその点に注目してみることをおすすめします。

あらすじ

親友のローラを亡くした主婦クレールは、悲しみに暮れながらも残された夫ダビッドと幼い娘リュシーを守ることを誓う。ある日、2人の様子を見ようと家を訪 れたクレールは、そこで亡き妻の服を着て娘をあやすダビッドの姿を目撃する。女性の服を着たいというダビッドの告白に戸惑いを隠しきれないクレールだった が、いつしか彼を女性として受け入れるようになり、新しい女ともだちのビルジニアとして絆を深めていく。そしてクレールもまた、ビルジニアの影響で自分ら しく生きることの素晴らしさに気づく。

彼は秘密の女ともだち : 作品情報 - 映画.com

 

※これ以降はネタバレありでラストについて感想を述べさせていただきます!

解釈が分かれるラスト!

交通事故によって意識が戻らないダヴィッドに対して、クレールは女装をさせる。目を覚ましたダヴィッドの手を繋いでクレールは夫に会う。そして7年後として、ダヴィッドが子供の学校の出迎えをして手をつないで帰るというシーンでこの映画は終わります。

この一連の流れで面白いのがクレールがダヴィットに女装をさせるシーン。

ダヴィッドがローラの死後、女装をしたいという願望を再度目覚めた契機がローラの死体に服を着せたことですが、それと同じくクレールもダヴィッドに女の服を着せるというシーンがありました。

つまりクレールもダヴィッドに服を着せたことで自分自身のヴィルジニアダヴィッド)を求める欲望にはっきり気づいて認めたということでしょう。

 

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だから最後クレールとダヴィッドがどうなったかというと、私は二人は一緒に暮らすようになったと考えます。クレールは夫と別れ、ダヴィッドのもとへ行ったということです。

けれどもこの二人の間にはちゃんと愛はあったのかなというのが考えてしまうところ。

というのもこの二人の欲望を突き動かすのはローラという存在なわけで、この二人が結びついたのもローラという存在があったからこそだと思うからです。

もちろん作中で描かれていたように二人が惹かれあっていたのは事実でしょうが、お互い潜在的にローラの美しさに惹かれているからこそ二人が結びついたとも言えます。

女性になりたいという二人の願望が指すこの”女性”というのは、おそらく”ローラ”のことを指していて究極なところ二人はローラと同化したい。

しかしローラが死んでそれが出来ないからこそ、少しでも欲望を満たすためローラに惹かれている人間であるお互いに惹かれている。

極端に言えばローラに対する欲望を満たすために二人は一緒になるしかなかった、という見方ができると思います。

お互いでその欲望を補う。他にも色々な解釈はできると思いますが、ローラなしで惹かれているわけではないという二人の愛の形はとても興味をそそられました。

 

最後に

前半は笑えるシーンが多いですが、どんどん話が進むにつれ「これは一体どうなってしまうのか」と不安をも抱かせる展開にドキドキしました。

観終わった後に性的志向やラストについて話たくなるのは間違いありません。