”方向感覚を失わせるカオスな世界に完敗” 『インヒアレント・ヴァイス』感想
ネタバレなしで映画『インヒアレント・ヴァイス』を見た感想を書いてます。原作未読。ポール・トーマス・アンダーソン映画は『マグノリア』しか観ていない未熟者です。映画好き名乗るのやめろなんて言われても仕方ないにわかなのでファッキン豚野郎が書いてると思って読んでくれてOKです。
リリース情報
あらすじ
1970年代初頭のロサンゼルス。ビーチを拠点に活動するマリファナ中毒のヒッピー探偵ドック(ホアキン・フェニックス)を、以前付き合っていた女性が訪ねてくる。彼女の依頼を受け調査を進めるドックだったが、いつしか巨大な陰謀に巻き込まれていき……。
簡易感想
私的好き度:★★★★★
笑える:★★★★☆
泣ける:★☆☆☆☆
スカッとする:☆☆☆☆☆
ドキドキする:★★☆☆☆
悲しい:★★★☆☆
怖い:☆☆☆☆☆
映画感想
監督 ポール・トーマス・アンダーソン×主演ホアキン・フェニックス×原作トマス・ピンチョンが見事なアンサンブルを披露!!
舞台は1970年代のアメリカ。そこで刑事ドック(ホアキン・フェニックス)が不動産業界の大物ミッキー・ウルフマンそしてその愛人でありドッグの元恋人であるシャスタの失踪の謎を探っていくのですが、次々と現れる登場人物と展開するストーリーによってまるで入り組んだ迷路に入り込んでいく感覚を抱きました。
しかもその迷路は入口と出口がつながっておらず、現実と非現実世界の狭間で見ている私はこう思うのです「今まで何を見てきたんだろう・・・」と。
そんな方向感覚がわからなくなるほどの煙がかった不明瞭な世界をこの映画は見事なまでに映し出しています。
そしてこの世界でただのだらしないクズ人間と思いきや見ているこっちが泣きたくなるほどの哀愁を漂わせるのが主人公”ドック”。髪や髭を無造作に伸ばしたホアキン・フェニックスがそれを見事なままに演じています。
やばい、最高にかっこいい!!!!
※この映画ははじまりと終わりが繋がっていません。
さっきから言ってたけど「はじまりがあるから終わりがあるんだよ!!!何かっこつけて意味わかんないこと言ってんだ!!!」って感じですよね。
でも絶対にこの表現の仕方間違ってないですからね!!!!!
この作品は事件の真相を追い求めていくミステリー要素のある物語のはずなのに全然すっきりしないんですよ。永遠に終らない不明瞭さがこの映画の世界にはあるように感じられ、そしてその不明瞭さは登場人物やストーリーの輪郭をも失わせているように感じました。
私の理解力不足も起因していることは否定できませんが見ていて笑えるくらいに展開についていけなくなったのです。
ストーリーが進むにつれ次から次へとドックの目の前にキャラクターが現れます。ドックと腐れ縁の暴力刑事、恋人の検事、死んだはずのサックス奏者、ラリッた歯科医・・・
もう誰が誰なのかわからなくなっていくんですよね。キャラクターとストーリーの関連性がわからなくなっていき、ドックの行動の動機がわからなくなっていくのです。
それは困ったものですよ。作品のネオンの漂う”匂い”を呑気にかいでいたらどんどん話がややこしくなっていったのですから。「油断した・・・!」と気づいたときにはもう遅く、必死に頭の中を整理させながら見ていました。
そしてドックが追い求めていた謎の真相もだんだんわかってきて、やっとキャラクターの名前と顔が一致していきた私の頭の中もすっきりしてきたと思ったものの、それが全然すっきりしないんですよね・・・。
それはそもそも主人公が追い求めていたものがその事件の謎の真相ではなかったと思わされるからです。最後まで哀愁漂う不明瞭さ、それを探偵という明確なものを追う存在を主人公におきながら表現した原作者と監督の卓越した表現力に完全に敗北しました!!!
アンダーソンは本作を「緻密な、すばらしく熟考された物事が、想像しうる中でも最高にくだらないジョークの中で混ざり合っている」と表現していますが、それがよく伝わってきます。
計算して物語のピースを抜いたり適当に刺したりすることでわざと混沌さを作りだしている。そんな映画だと思います。本当に素晴らしい!!
個性あるキャラクターとジョークに爆笑www
そしてこの映画は不明瞭であることかつバカバカしさがあるのです。それはもう笑えました。みんながみんな笑えないかもしれないけど少なくとも私と隣にいたおじさんは笑えたので笑える映画ですこれは。
ジョシュ・ブローリンが演じる暴言を吐いて暴力をしまくる刑事とか、その他登場するキャラクター全員に胡散臭さが漂っていてバカバカしいんですよww
例えばこんなキャラクターがいます。
◆ラリー・”ドック”・スポーテッロ(ホアキン・フェニクス)
ヒッピーの私立探偵。マリファナでぶっ飛んだ意識で、物事を鋭く見抜くこともあれば、複雑にしてしまうこともある。
◆シャスタ・フェイ・ヘップワース(キャサリン・ウォーターストン)
ドックの元カノで、自由な精神をもつビーチガール。
◆マイケル(ミッキー)・ザカリ・ウルフマン(エリック・ロバーツ)
シャスタの行方不明の恋人で、行方不明になるまでには、ロサンゼルス近郊の昔ながらの姿を高級不動産に変える億万長者の土地開発業者だった。
◆クリスチャン・F・”ビッグフット”・ビョルンセン警部補(ジョシュ・ブローリン)
凍ったバナナをむしゃむしゃ食べるロス市警の警部補で、自称”ルネサンス刑事”。アルバイトで俳優をやっているが、ドックとは愛憎関係である。
◆ソンチョ・スマイラックス弁護士(ベニチオ・デル・トロ)
ドックがしょっちゅう相談にいく弁護士。実際には海運関係が専門だが、非常に役に立つ人物。
◆ペニー・キンボル地方検事補(リース・ウィザースプーン)
ロサンゼンス検事局の検事補。ドックが時折”下界に降りたときの”恋人。
◆コーイ・ハーリンゲン(オーウェン・ウィルソン)
おとり捜査中のサックス奏者で、理由ははっきりとはわからないが、自分自身の死を偽装し、今はトパンガ・キャニオンで音楽バンドと一緒に潜伏している。
・・・名前覚えづらすぎる。
そして”おふざけ”がもういいだろというくらいに散りばめられていて終始笑わざるを得なかったです。
特に反則級に笑えたのがジョシュ・ブローリンが日本人が経営するパンケーキ屋さんで片言の日本語でパンケーキを注文するシーンです。
これは反則でしょwwww笑わないはずないでしょwww一番声を出して笑いましたwwwwww
・・・・それなのに、こんなにくだらなくてバカバカしくて笑えるのに、なんで悲しくなるんだろ。
笑えたんですけど見終わった後は結構悲しい気持ちになりました。
ふと無力感に襲われるときが私はあるんですけどまさにそんな感じ。主人公からも作品からもふと無力感が目の前に現れたような感覚を抱き、ひどく悲しい気持ちになりました。だからこそこの映画はしばらく私に引っかかりを残したのだと思います。
永遠の不明瞭さを感じられると述べましたが、もはやそれを一番望んでいるのは主人公のドックなのかもしれません。ヤクでラリッてわけがわからなくなっていることが彼にとっては”何かに対する救い”となっていたのだと思うのです。
っで、その何かというのが『インヒアレント・ヴァイス』=「内在する危険」なのではないかと思うわけです。原作を読んでいないので偉そうに考察はできないのですが、この作品にも登場人物にも何かが破裂する危険性が潜んでいるように感じました。作品の最後にそれについてのセリフがあったんですけど、もちろん覚えていないのでまた確認してみます。
最後に
この映画は見る人によってはひどく退屈な映画だと思います。話はよくわからないのに台詞は長いしで「なんなの!??意味わかんないよ!!!」という気持ちを抱く人は絶対にいるでしょう。ストーリーを楽しもうと思うほどに退屈になっていく映画だと思います。
でもそうじゃなく、この映画はそのものの”映画体験”を楽しむものだと思うのです。不明瞭な1970年代アメリカのグルービーな世界に入り込んでいく感覚に酔いしれることがこの映画の一番の醍醐味でないかと思うのです。
感覚を研ぎ覚ましてラリッたように映画に身をまかせる。「わけわかんない!!!」と思うでしょうが、そのようにすることでこの映画の計算し尽された不明瞭な世界を楽しむことができるのではないだろうかと思います。