『バレエボーイズ』感想”人生の岐路に立つ少年たちの揺れる思いと熱い眼差し”
映画『バレエボーイズ』を見た感想を前半はネタバレなしで書いてます。
バレエの経験はありませんが、バレエをしたことがない人間でも確かに心打たれる映画となっていました。
リリース情報
日本公開日:2015年8月29日
簡易感想
私的好き度:★★★★☆
笑える:★☆☆☆☆
泣ける:★☆☆☆☆
怖い:☆☆☆☆☆
スカッとする:★☆☆☆☆
ドキドキする:★★☆☆☆
心があったまる:★★★☆☆
憂鬱になる:☆☆☆☆☆
映画感想
バレエダンサーを目指す少年たちの人生の岐路を切り取った作品
これからの人生をどうしようか、迷える少年たちが悩み考え自分自身で決断していく。12歳から16歳までという多感な時期で少年たちが自分の人生と向き合い成長していく様を描いた作品で、観終わった後とても胸が熱くなりました。
この作品はノルウェーのオスロのバレエスクールに通う少年3人の4年間を撮ったドキュメンタリーです。プロのバレエダンサーになると決意し夢に向かって打ち込む姿を映しているのではなく、「バレエを続けるかどうか」今まさにこれからの人生を決めようとする時期をフォーカスしたストーリーとなっていました。
バレエというのはやはり、女がやるものという認識が大きいようで、事実バレエ大国と言われる日本でさえ、その比率は女:男=8:1となっています。それくらいに男のバレエダンサーは数が少ないのです。
そんなまわりは女だらけの世界で、バレエに打ち込むのが画像左から”ルーカス”、”シーヴェルト”、”トルゲール”という少年3人。
彼らは、顔を合わせるたびにおふざけをするくらいにとても仲がいい。お互いライバル心を持っているというよりも、ただ純粋に一緒にいると楽しいという気持ちで関わりあっている仲良し三人組です。
作中では、練習に励むというよりもそんな彼らの女の子の話をしたり仲良くおふざけするシーンが多くあるので心が和みました。
けれども、一人一人に注目して気持ちを聞き出すと彼らはそれぞれ真剣に様々なことを考えていることがわかる。
例えば、アジア系の”シーヴェルト”は「学業の両立」に悩みます。バレエが一番ではあるけれども、バレエ以外の人生の選択肢を持つために勉強をしないといけないという思いがあるからです。
そう、他の2人も同じく、バレエだけでご飯を食べられる人間は一握りという厳しい現実に向き合ってどうバレエと関わっていくか、続けるかどうか、そのようなことをシビアにそれぞれがそれぞれの思いと言葉で考えています。
そうして、少年たちが自分の人生を自分自身で考え答えを見つけていくという描写がこの映画の見どころなのではないでしょうか。
まさに、自分自身で自分の人生を生きようと一歩踏み出すことで彼らは少年から青年へと成長したのだと思います。その過程を見ることは大変貴重で、それを映し出したことが”記録する”という役割を持つドキュメンタリー映画として素晴らしい作品であったと思う理由です。
そしてそんな彼らを見て、「自分はいつ自分の人生を生きようと考えたか」そんなことを思いました。ところで自分の人生を生きるとは曖昧な表現ですが、もっと明確に言うならば、まわりのためにではなく自分のために生きるということです。
仲良しの少年3人組はそれぞれの道を歩むことになるのですが、友達や家族といることが一番であると考えていた彼らが、自分の将来を考えていく中で、まわりの存在を考えてばかりでは自分の望む選択は出来ないということが分かってきます。
自分の人生を歩むとは、家族や友達と足並みを揃えることをやめるということです。そしてそれが意味するのは、自分の人生に自分自身が責任を持つことでしょう。
そして例え友情を犠牲にしても責任を持って自分の人生を歩むという決断をすることは非常に少年にとっては難しいことだと思いますが、少年3人はしっかり妥協することなくその問題と向き合います。
そんな真剣に自分の人生を歩む彼らを見て、自分自身ももっと自分の人生と向き合おうという気になるのではないかと思います。
現に私自身、この映画を見て自分の人生を生きることを再度考えてしまいましたね。いやー、いい刺激を頂きました。
ちなみに見た目に関しては、ルーカス君の成長具合が凄まじかったです。
▼観賞前に知っておくといい知識
KHiO(オスロ国立芸術アカデミー)
番組の中で主人公の3人が受験するKHiO(キオ)は、 ノルウェーの首都オスロにある国立芸術大学。ダンス学部の中にクラシック・バレエのコースがあり、入学できるのは1年に10人以下の狭き門! メインとな るバレエの授業の他、栄養学、解剖学、怪我防止、キャリア・プランニングなどのプロのダンサーとして生きていくのに必要な講義があり、卒業すれば大卒資格 を得ることができる。授業料は無料だ。ここに入学できれば世界中のバレエ団への就職の道が開け、プロとして活躍する可能性が高まる。
彼らのその後 ※多少ネタバレあり
この映画は、その後を知ってこそ完結するものであると思います。
ということで以下、どうなったか公式HPから引っ張ってきました。
ルーカス
英国ロイヤル・バレエ・アカデミー卒業後、ロイヤル・バレエ団に研修生として入団。2015年8月より本拠地であるロイヤル・オペラ・ハウスの舞台に立つ事が決まっている。
シーヴェルト
若手ダンサー登竜門の「ローザンヌ国際バレエコンクール2015」のファイナリストに選ばれるなど、精力的にバレエ活動を行っている。
トルゲール
2015年7月からノルウェー軍への入隊が決まった。
まず、ルーカス。彼はロイヤル・バレエ・アカデミーを無事卒業して舞台に今年立つことが決まったようで、順調にダンサーとして成長していたことがわかります。
そして、シーヴェルト。彼はオスロの芸術大学であるKHiOに入学しますが、その後もバレエを続けルーカスの背中を追っているように感じます。
最後に、トルゲール。彼は軍に入隊したようでバレエをやめてしまったようですね。
しかし、なんだろう。この三人のその後に対してそんな驚きはありません。
本作を見て、彼らがその後そうなるだろうなという姿になっているからでしょう。
トルゲールに関しては辞めてしまいましたが、彼がバレエをやめてしまうことはなんとなく本作を見ればわかります。
だから、この作品は少年たちのたった4年間しか映し出していないかもしれませんが、彼らのその後というのは描く必要がないくらいに、その4年間というのは大変彼らの人生でも濃密で意味のある時期であったと思うのです。4年間が彼らのその後の人生まで映し出していると言っても過言ではありません。たった75分という短い時間で、彼らの人生のその後まで感じさせるということが、この映画の素晴らしいところです。
そして、なんとなく想像は出来ていても少年3人があの時した選択や考えたことが彼らの人生を作りだしていることが感慨深く、またそれほどに真剣に彼らが考えていたことが改めてわかりました。
人生とは、真剣に向き合った時に道というのが作られるものなんでしょう。私にその道は作られているのか。思わず考えてしまいますね。
最後に
自分の人生を自分自身で生きる。少年たちが厳しいバレエという世界と向き合い、思い悩み様々な葛藤をする中で成長する姿は本当に熱くなるものがありました。
何が良いって、少年たちがそれぞれのことを思いやりながらも自分の人生の答えを見つけていくというところです。仲良し少年3人組がそれぞれの道を歩む過程で、お互いを思いやりながら嫉妬や対抗心など、複雑な思いを見え隠れさせる描写には色々考えさせられるものがあり心を打たれました。
まさにこの映画には、見た目はもちろんのこと少年から青年へと変わっていく人間の姿が繊細に映し出されている。素材は満点。考えれば考えるほどに良い作品であると思わされます。
▼ルーカス君のインスタ
▼シーヴェルト君のインスタ