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映画に飲み込まれた迷い主

『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』感想 ”作り手の持つ潜在的センスや才能で成り立っているような特別な作品”

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 ネタバレなしで映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』を見た感想を自由に書いています。お洒落映画ですが私はお洒落の対岸にいるような人間ですので、「あの服がー」とは「あの音楽がー」とか洒落たことではなく、それ以外の要素に関しての感想が中心です。

リリース情報

日本公開日:2015年8月02日

レンタル開始日:

あらすじ

スコットランドグラスゴー。拒食症の治療で入院しながら、たった一人でピアノに向かっては作曲に没頭するイヴ(エミリー・ブラウニング)は、街へと飛び 出してライブハウスに行く。そこで彼女は、アコースティックギターを手にしたジェームズ(オリー・アレクサンデル)と知り合う。やがて彼にキャシー(ハン ナ・マリー)という少女を紹介され、三人で音楽活動に乗り出していく。こうして音楽と青春と友情を謳歌(おうか)するイヴだったが……。

解説・あらすじ - ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール - 作品 - Yahoo!映画

 簡易感想

私的好き度:★★★☆☆

笑える:★★☆☆☆

泣ける:☆☆☆☆☆

スカッとする:☆☆☆☆☆

ドキドキする:☆☆☆☆☆

心があったまる:☆☆☆☆☆

怖い:☆☆☆☆☆

 

映画感想

不安定で音楽や芸術にあふれた世界と向き合う若者の姿を描く

Belle and Sebastianのスチュアート・マードックが、2009年に出したソロアルバムを自ら監督・脚本を務めて映画化したミュージカル映画です。

はっきり言ってこの映画は映像からストーリーまで未熟な作品でした。

ゴダールやハルハートリーと似たような点はありますが決して映像や脚本に深い点はなく”チープ”という表現がとても合う。

しかしその未熟さがこの映画のメッセージと非常にリンクしていたり、未熟ながらも秀でて光るものがあり作り手の持つ潜在的センスや才能で成り立っているような作品である思いました。

 

まさにひと夏の思い出と表現されるような青春を描き、永遠には続かないことと向き合う若者の未熟な姿を描いた映画だと感じたのです。

登場する主な若者はイブとジェームズとキャシー。主人公イブは拒食症で所謂メンヘラ女ですが抜群の音楽センスを持った才能あふれる人間です。そして彼女が夏の初めに出会うのがジェームズという中性的な見た目でギター弾きの男の子。彼らはそうして、キャシーという年下の女の子と共にバンドを組むことになり ます。これがメインのストーリー。

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特にイブ(画像真ん中)とジェームズ(画像左)というキャラクターの対比がこの映画を動かしていると思いました。

この映画の主人公イブは”拒食症”で人生の支えがありません。食べ物を食べるということは生きることの土台にも関わらずそれがないため、彼女の人生は突然崩れ落ちてしまう可能性を常にはらんだ実に脆く不安定なものと言えます。

しかし芸術に対して特別な才能があり、本来は人生のプラスαで付け加えられるはずの音楽を土台のないまま彼女は人生の全てとして向き合おうとします。

そして対するジェームズはイブと同じく音楽が大好きで将来レコードを出すことを夢見ながらも、決して高望みをせず「ご飯が食べられるほどではなくて自己満足でも十分」そう思うような堅実な青年です。

この二人は音楽をいつまでもやっていきたいと思う共通点はあるものの、そのための望む生き方が全く違うんですね。

音楽と生きるという不安定な世界との向き合い方が根本的に違うのです。

つまりイブは音楽と生きる世界にいつまでもいるために不安定ながらも音楽に人生をかける道を選択しますが、ジェームズは安定志向なため音楽を人生の主軸としておこうとはいないのです。

 

しかし二人の向き合い方がどちらがいいというものはありませんが二つとも未熟さがあります。イブは人生の土台がしっかりしていないのにその生き方はあまりにも無茶だと思いますし、ジェームズも若いのに安定を求めすぎている。

その未熟さは若者だったら誰でもあるものです。現に私にも中途半端にわかりきった世界で正解を出そうとする未熟さがあるので共感できます。

そんな彼らは私のように宙ぶらりんで、そして未成年の頃のように今が永遠に続くとは思っていないけど今ある青春を保とうとしている。

その青春は彼らにとっては音楽でそれを保つためにどうしようかと分岐点に立っているのではないかと思いました。

しかし同時に音楽と同じくらいキャシーを含め青春を過ごす友達の存在は大きく、一緒にいたいと思っている。音楽を選ぶか友達を選ぶか。そこでもまた彼らは分岐点に立っているのです。

『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』はそんな若者の未熟ながらも前に進もうとする姿を爽やかでポップな音楽とお洒落なビジュアルで描いた映画であると思いました。

 

不器用な青年のもどかしさ

この映画の特別良く描かれている一つがジェームズという青年の心情なのではないかと思いました。というか私にとって一番響いた要素が彼の存在だったんですよね。

イブはなんでもパパッと物事を決めるような人間に対してジェームズはうじうじと考えるような人間です。そのためジェームズはイブに振り回される存在になってしまっています。

それまでの経験から振り回される側の人間に対しての方が感情移入がしやすいということもあり、ジェームズ目線で色々思うところがありました。

彼は作中に「バンド名を自分たちで決めることが恥ずかしいことだ」というような意見を持つ人間でして、そんなことを気にしてしまうほどに彼には心に自由さがありません。

ブログのタイトルを決める時の恥ずかしさというか馬鹿馬鹿しさというのと一緒かな。共感できるんですけどそんなこと気にするなんて自分はダメだなと思うわけで、彼の不自由さと自分を重ねてしまいました。

こうしないといけない。これが正しい。自分はこのくらいの人間だ。

彼の安定志向にはそのような諦めともいえる勝手な決めつけがあるように伺えます。

だから決して彼が音楽が続けられるなら自己満足でもいいというのは本心ではないと思うんですよね。

音楽の神様に選ばれないと多くの人の心に残る音楽はつくれない。

自分に自信がないというわけではなくよく音楽のことを知っているからこそ、限界を感じていて高望みすることができないでいるんです。

恋愛にも言えるけれどよく考えれば考えるほどに目の前の壁が大きくなり足が重くなる。そうして悩んでいるのがジェームズという人間なのではないかと思いひどく共感できました。

 

最後に

この映画は質がどうのこうのというよりも見ている人の心をひどく揺らす可能性のある要素を含んだ映画なのだと思います。私の場合はイブの思っていることはさっぱり私には理解できず、全然好きなキャラクターではなかったもののジェームズの心情にひどく共感しました。

しかしきっと中にはイブやキャシーに共感し、また音楽やファッションに強く心を打たれる人もいるのでしょう。残念ながら私はそこまで熱狂的には好きになれませんでしたが、こういう映画にものすごく惹きつけられる人は少し羨ましい気持ちがあります。

結論、お洒落になりたい。

 

 

 ▼サントラはずっと聞いてられますね。

▼予告

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