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映画に飲み込まれた迷い主

映画『地雷と少年兵』感想 ”人間の心に潜む盲目的恐ろしさと、残された希望”

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映画『地雷と少年兵』を見た感想をネタバレなしで書いています。東京国際映画祭ではコンペティション部門で上映され、主演のローラン・モラーが最優秀男優賞を受賞しました。私は映画祭では一番最初に見た作品がこれだったんですけど、あまりの出来の良さに感動、感激してしまいました。(てっきり作品賞か観客賞をとるものだと思っていた)なので是非おすすめしたい作品として紹介したい気持ちを持ちながら感想を述べたいと思います。

リリース情報

日本公開日:2016年(未定)

簡易感想

私的好き度:★★★★☆

笑える:☆☆☆☆☆

泣ける:★★★☆☆

怖い:★★★★☆

スカッとする:☆☆☆☆☆

ドキドキする:★★★★★

心があったまる:★☆☆☆☆

憂鬱になる:★★☆☆☆

 

映画感想

人間の心に潜む盲目的恐ろしさと、残された希望

一発目に地雷と少年兵を見たんですけど、見終わったあと「今年の映画祭はすごい」って思いました。それくらい強烈なインパクトを持った作品で一気に映画祭が楽しみになったと言っても過言ではありません。

ポーランドの地に戦後残された200万個のナチスの地雷。それを処理した多くはドイツの少年兵であったというショッキングな出来事を題材にした作品です。『戦場のピアニスト』、『愛を読むひと』、『ライフ・イズ・ビューティフル』などなどナチスを題材にした名作は多くありますが、また一つナチス映画の名作が誕生したと言ってもいいのではないでしょうか。

ポーランドの歴史的闇を描いた資料としての役割はもちろんのこと、アイヒマンのように人類が普遍的に考えるべき人間の悪の側面を問題として問いかける役割を持った、まさに今もこれからもみるべき作品になっていたと思います。

話の軸となる登場人物は、軍隊で地雷処理を専門にして働くポーランド人の男。そしてその男のもとで地雷処理をすることになった少年たち。双子の兄弟。ドイツで働くことを夢みる少年や利口でまわりを気遣う少年など、思いや性格の違う少年たちは成されるままに万単位で海岸に埋められた地雷を処理することになります。

彼らには選択の余地はなく、人間としても見られない。ポーランド人にとっては少年たちは”愛する自国を汚したドイツの一員”としてしか見られていないのです。 そこにこの映画が示す人間の恐ろしさがあるのだと思います。人間は時に物事の細部が見られなくなる生き物でしょう。身近なことで言えば、男と女子供と大人という大枠で「これだから最近の若者は…」「男はみんな自己中だ」なんてことを本気で考える人がいますが、このように盲目になって目の前にいる人間を人間としてではなく大枠に含まれるモノの一つのようにみてしまったりする。

っでこのように人間が人間を人間として見なくなることの何が怖いって、それはつまり人間が人間を平気で傷つけられるということなんだと思うのです。そこに人間の恐ろしさがあると考えますし、そのように変貌する可能性を常にはらんだ生き物であるということそれ自体に恐れを感じます。

映画に戻りますが、この映画でポーランド人が少年たちに向ける憎悪はナチスを象徴として捉えたドイツに本来向けられているものであり、少年たちは一人の人間として見られていない。だからこそ平気で少年たちを理不尽な状況に追い込め痛めつけられるのです。

だって普通に考えれば少年たちがポーランドを支配しようと戦争を起こしたなんてありえないじゃないですか。この映画を見ている人の中には「どうして少年たちを痛めつけるんだ。何も罪はないじゃないか」って思う人はいると思います。でもこれが戦争なんですよね。 きっかけは様々なものがあるとしても集団的に盲目に生身の人間を見られなくなることで戦争は起きる。ユダヤ人を虐殺し、街を燃やせる。とっても便利な言葉で表現するならば、”想像力の欠如”。これこそが人間が悪魔に変ぼうする元凶であるのだと強く思います。

またもや映画からそれましたが、このような人間の恐ろしさが大前提にある映画なのだと思うのです。「憎きドイツめ!」と少年たちに投げつけられる本来の標的を失った言葉。そんな宙を漂うだけの台詞にモヤモヤとムシャクシャという心を落ち着かなくなる感覚を見ていて持たざるを得ない映画でした。

っでそんな盲目になってしまった人間が少年と向き合うとするストーリーがとても胸を打つのです。目の前で死んでいく少年を見て徐々に自分の過ちに気付き少年を人間として接するようになる心の動きと、怒りの矛先を探して少年たちを受け入れられない気持ち。

どれが良い悪いということではなくこの葛藤をもたらすのが戦争であり、そしてこの戦争によって人間らしさを失った心が再生していく姿それ自体に心が打たれるのです。それこそが盲目になって人を傷つけるという間違いを犯してしまう人間に残された希望です。足を踏み外しても元に戻ることができるのがどんな悲劇の地にも残された希望であるのです。

この映画が写す世界は残酷ではあるけれども、そんな希望のある映画であると思います。過去の作品でいうならば、『善き人のためのソナタ』とそういう希望の描き方に関しては似ているかもしれませんね。

 

凄まじいスリル感!

でも『善き人のためのソナタ』と同じく戦後を描いているけれど、描いていることが地雷処理だから戦時中のような緊迫感やグロテスクさがあるのがこの映画。いつ爆発するのかわからない恐怖に106分間ドキドキしまくるという心臓に悪いスリラー的要素の含まれている点がまた一つこの映画の魅力であると言えるでしょう。

もう本当逃げ出したくなりましたよね、 映画館から。それくらい心臓に良くない。監督の狙いでわざと「え、このタイミングで!?」という時に爆発するから身体がビクッとなることがあるほどです。主演の俳優が言っていたように、まさに実際に地雷を撤去しているような緊張感が感じられる作品となっています。

映画祭の作品はアートなものが多いから、結構時間が経つのが遅く感じるものもちらほらなんですけど、この作品はアート映画なんて興味ないね!!って人でも充分楽しめる作品でしょう。絶対に寝られません!←

 

喜ばしいことに日本公開が映画祭で上映する前に決まっていたらしく、日本では来年にもう一度見られるよう。いやはや納得ですね。こんなに出来のいい映画の配給が決まらないはずないでから。

 

最後に

惜しくも映画祭ではグランプリを獲得できませんでしたが、身近にも転がってる人間の過ち、そうして生まれた悲劇に残された希望。そのようなことを描き、決して明るい映画ではなく決していい気持ちになれる映画ではないかもしれませんが、知るべきこと・考えることの詰まっている作品であると思います。主役の俳優を中心に素人である少年たちの演技や映像も目を凝らすものであるので、満足できる完成度のある作品として多くの人に見て欲しいなと思います。